「人脈のためにMBAに行くのは、ありですか」。
週末に受けているMBA受験の相談で、いちばん多い質問がこれです。
はじめまして、真壁亮介と申します。
国内メーカーで海外営業をしていた31歳のとき、社費留学の選考に2回落ち、私費でアメリカのビジネススクールに進みました。
2012年から2年間通い、いまは外資系メーカーで事業企画をしながら、受験生の相談に乗っています。
出願した学校の中にはハーバード・ビジネス・スクール(HBS)もありました。
こちらは面接に呼ばれず、不合格でした。
それでも、受かった人たちの話を聞いたり、自分の学校で過ごしたりするうちに、トップ校の人脈がどこで生まれるのか、だいぶ具体的に見えてきました。
この記事では、HBSの公式情報と調査データ、そして私自身の経験をもとに、MBAの人脈が「どこで」「どうやって」できて、卒業後に何の役に立つのかを整理します。
人脈目当てで2,000万円を超える投資をするか迷っている方の判断材料になれば幸いです。
目次
MBAを目指す人の半数が「人脈」に期待している
まず、世界の受験生が何を求めてMBAを目指しているのかを見てみます。
ビジネススクールの入試団体であるGMACは、受験を考えている人を毎年調査しています。
2025年の1年間に145か国・4,253人から集めた回答をまとめたGMAC Prospective Students Survey 2026によると、MBAなどを目指す理由の上位は次のとおりです。
| 順位 | 目指す理由 | 選んだ人の割合 |
|---|---|---|
| 1 | 人生を豊かにし、可能性を伸ばす | 77% |
| 2 | ビジネスの知識を得る | 72% |
| 3 | グローバルなキャリアの機会を増やす | 68% |
| 4 | 収入を増やす | 62% |
| 5 | 資産を築く | 58% |
| 6 | 人脈を広げる | 54% |
人脈を挙げた人は54%で、半数を超えています。
ただ、順位は6番目です。
知識やキャリアのほうが先に来ていて、人脈は「あれば嬉しいもの」として見られていることが分かります。
卒業した側の実感はどうでしょうか。
GMACが2021年に公表した卒業生調査では、「大学院で職業上のネットワークが広がった」と答えた人が76%いました。
同じ調査で「就職で有利になった」は87%だったので、人脈は卒業生にとっても「いちばん」ではありません。
それでも4人に3人は、広がったと感じています。
私自身も、この数字には納得しています。
人脈は入学すれば勝手に手に入るものではありません。
一方で、2年間をきちんと過ごした人の手元には、確かに残っています。
人脈が生まれる場所は、入学した日から決まっている
では、その人脈はどこで生まれるのか。
受験生の多くは、華やかなパーティーや著名人の講演を思い浮かべます。
実際には、もっと地味で、毎日同じ顔を合わせる場所で生まれます。
約90人で1年を過ごす「セクション」
HBSの仕組みがいちばん分かりやすいので、例に取ります。
HBSの公式サイトにあるセクションの説明によると、学生は入学するとすぐに約90人の「セクション」に振り分けられます。
1年目の必修科目は、このメンバーと同じ教室で、同じケースを使って受けます。
公式サイトは、この経験が「長く続く友情と、一生ものの人脈」をつくると書いています。
1学年はおよそ940人なので、全員と深く知り合うのは無理です。
だから学校の側で、最初から「濃く付き合う90人」を決めておくわけです。
セクションの運営も学生がやります。
HBSのMBAブログによれば、各セクションでは代表や会計、社交担当など20人の役職を選挙で決めます。
90人のうち20人が何かの役割を持つので、裏方の仕事を通じて仲良くなる人も多いです。
私の学校にも似たクラス分けがありました。
卒業から12年たった今も連絡を取り合っている同期は、ほぼ全員が1年目に同じクラスだった人たちです。
毎日のケース討論で、相手の「考え方」が分かる
セクションで人間関係が深まる理由は、一緒にいる時間の長さだけではありません。
授業のやり方が大きく関わっています。
HBSでは、2年間で約500本のケース(実在する企業の経営課題をまとめた教材)を読みます。
授業は講義ではなく、90人での討論です。
「自分が経営者ならどうするか」を毎日のように発言し合うので、相手の知識や価値観、判断の癖まで見えてきます。
名刺交換を100回するより、1回同じ問題で本気で意見をぶつけ合ったほうが、相手のことはよく分かります。
卒業後に「あの人に聞こう」と思えるのは、この「考え方を知っている」関係があるからです。
ケースメソッドや英語の要件、奨学金や選考の流れまで含めた全体像は、HBSのハイエンドな学習環境を学費や選考まで含めて整理したガイド記事が分かりやすくまとまっています。
HBSを具体的に考えている方は、あわせて読んでみてください。
クラブや役職で、セクションの外へ広がる
セクションが「縦の深さ」だとすると、横に広げてくれるのがクラブ活動です。
HBSの公式サイトによれば、学生クラブは95以上あり、学生自治会の役職も200以上あります。
業界別のクラブ(テック、金融、ヘルスケアなど)もあれば、出身地域ごとのクラブもあります。
他のセクションの同期と知り合うのは、たいていこうしたクラブのイベントです。
私の学校では、日本人の同期が集まって「ジャパン・トレック」を企画しました。
他国の学生を日本に連れて行き、企業訪問や観光を案内する旅行です。
準備に半年かかりましたが、参加した他国の同期とはその後もいちばん気軽に連絡できる間柄になりました。
一緒に何かを作った経験は、ただ飲み会で話すより、ずっと長く残ります。
卒業後も人脈が続く仕組み
在学中の人間関係が卒業後にも続くかどうかは、本人の努力だけでなく、学校側の仕組みにも左右されます。
HBSはこの仕組みがかなり厚い学校です。
HBSの卒業生向けサイトによれば、卒業生は170か国以上に9万人以上います。
卒業生クラブや業界別の協会は、51か国に104団体あります。
卒業生は5年ごとにキャンパスに招かれ、同窓会(リユニオン)に参加できます。
日本にも卒業生の会「HBS Club of Japan」があります。
HBS日本リサーチ・センターのページを見ると、クラブと共催で教員の講演会や、受験生向けの説明会を東京で開いていることが分かります。
2025年6月の説明会には50名以上が参加し、卒業生によるパネルディスカッションや交流の場もあったそうです。
受験生にとっても、こうした場は使えます。
説明会で卒業生と話しておくと、エッセイを書くときや面接の前に、学校の雰囲気を具体的につかめます。
私も受験生時代、自分の学校の東京での説明会で知り合った卒業生に、出願書類の相談に乗ってもらいました。
人脈づくりは、実は入学前から始まっています。
在学中から卒業後までの流れを整理すると、次のようになります。
| 時期 | 人脈が生まれる場 | 関係の特徴 |
|---|---|---|
| 1年目 | セクション(約90人)、少人数のプロジェクトチーム | 毎日顔を合わせる。深く狭い |
| 1〜2年目 | クラブ、学生自治会、トレック | セクションをまたいで広がる |
| 卒業後 | 各国の卒業生クラブ、業界別の協会 | 同じ地域・業界の先輩後輩とつながる |
| 5年ごと | リユニオン | セクションの仲間と再会し、関係を更新する |
こうして見ると、人脈は1回できたら終わりではありません。
卒業後に会う機会があるから、関係が続きます。
ハイエンドな人脈は何の役に立つのか
では、手に入れた人脈は具体的に何の役に立つのでしょうか。
「人脈を通じて年収の高い仕事に就ける」と考える人は多いと思います。
ところが、これを検証した研究があります。
ニューヨーク大学とマサチューセッツ工科大学の研究者が2016年に発表したMBA学生の就職活動に関する論文では、MBA学生が受け取った内定を、どのルートで得たかによって比べています。
その結果、知人の紹介で得た内定は、求人への応募など正規のルートで得た内定より、総報酬が低いことが分かりました。
親しい人の紹介では17%、それほど親しくない人の紹介では16%低かったそうです。
それでも、それほど親しくない人から紹介された内定は、受け入れる割合が高かったといいます。
研究者は、お金以外の価値、たとえば将来性や仕事の中身についての情報が決め手になったと見ています。
この結果は、私の実感ともよく合います。
帰国して事業企画の仕事に就いてから、東南アジアで新しい事業を検討したことがありました。
そのとき頼ったのが、シンガポールで働く1年目のクラスの同期です。
報告書には載らない現地の商習慣や、取引先候補の評判を、電話1本で教えてくれました。
人脈で年収が上がったわけではありません。
代わりに、お金を出しても手に入りにくい情報に、すぐ手が届くようになりました。
MBAの人脈の価値は、ここにあると考えています。
人脈ができる人と、できない人の違い
同じ学校を出ても、人脈の厚さには大きな差がつきます。
受験相談でいろいろな卒業生の話を聞いてきて、差がつくのは次のような点だと感じています。
- 1年目のクラスで、役職や裏方の仕事を引き受けたかどうか
- 討論で、上手な英語ではなくても自分の意見を言い続けたかどうか
- クラブやトレックで、参加するだけでなく企画する側に回ったかどうか
- 卒業後も、年に1回は近況を送り合う習慣を続けたかどうか
逆に、人脈ができなかったと話す人に多いのは、「学校が用意してくれる場に出ていれば、人脈はできるはず」と思っていたケースです。
名簿に名前が載ることと、困ったときに電話できる関係になることは、まったく別です。
日本人同士で固まってしまうことを心配する方もいます。
私の経験では、日本人の同期は息抜きの相手として大事でした。
普段はそれぞれのクラスで過ごし、疲れたときに日本語で話せる場があると、かえって外に出ていく気力が湧きます。
日本人同士の付き合いを避けるより、それだけにならないよう気をつければ十分です。
英語に不安がある方も多いと思います。
私も1年目の討論では、発言のタイミングがつかめず苦労しました。
それでも、授業の後に「さっきの意見、こういう意味だよね」と声をかけてくれた同期が、今もいちばん付き合いの長い友人です。
流暢さより、話そうとする姿勢のほうがよく見られています。
まとめ
MBAの人脈について、要点を振り返ります。
- 受験生の54%が人脈を目的に挙げているが、順位は6番目
- 卒業生の76%が「ネットワークが広がった」と答えている
- 人脈の中心は、1年目に毎日顔を合わせるクラス(HBSでは約90人のセクション)
- クラブやトレックで、クラスの外へ広がる
- 卒業後は各国の卒業生クラブやリユニオンが、関係をつないでくれる
- 人脈の価値は年収より、手に入りにくい情報に届くことにある
人脈は、パーティーで名刺を配って手に入るものではありませんでした。
同じ教室で意見をぶつけ、同じイベントを一緒に作った人とだけ、深くつながれます。
だから、人脈だけを目的にMBAを目指すのはおすすめしません。
学びたいこと、やりたい仕事があって、その過程で本気で付き合った相手が、あとから人脈になります。
これから出願を考えている方は、まず受験生向けの説明会に足を運んでみてください。
そこで話す卒業生の様子を見ると、その学校でどんな人間関係ができるのか、案外よく分かります。
最終更新日 2026年9月27日 by acueva